運営者インタビュー|捨てるをまわす、くらしをつくる。カフェやコワーキングスペース等を併設する複合施設「トトン」オープン後3か月…実際のところどうですか?


富山の老舗家具店である「株式会社米三」が、2022年9月に新業態として富山県富山市問屋町にオープンした「トトン」。家具の循環(回収/再生/販売)を中心に、サスティナブルなライフスタイルの提案の場として、さまざまな資源循環を体験できる施設です。アップサイクル家具や環境に配慮した雑貨の販売に加え、家具工場に併設するリペア・DIYスペース、カフェやコワーキングスペースなども併設した他に例のない複合施設。
SPACE RENTAL TODAYでも、オープンに際して、そのコンセプトや強いインパクトを持った施設写真をご紹介しましたが、今回はオープンして約3ヶ月経った今の「トトン」のリアルな様子について、株式会社 米三常務取締役である増山さんにお話をうかがいました。
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「コワーキングスペースをオープンしました!」という記事は多くありますが、オープンしたその後のリアルについて触れる記事はあまりありません。この連載では、気になるコワーキングスペースの担当者様に直接話を伺い、思想や理想を深堀りしつつ、リアルな運営の様子をお伝えします。
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高騰する「引き取った家具の処分費」をなんとかしたい、というスタート


―「捨てるをまわす、くらしをつくる」という、痺れるコピーですが、どのような思い、経緯で、この複合空間をつくったのですか?
私たち株式会社米三は、家具・インテリアの専門店を富山、石川県に5店舗運営しつつ、EC事業、法人向けのオフィスや施設の設計と施工、一級建築士を擁するデザイン事務所まで幅広く事業展開しています。
お客様に新しい家具を購入いただくタイミングの多くで、米三では古い家具を引き取っています。その際には、引き取り料をいただいているんです。
お金をもらって処分をしているのであれば問題ないと思われるかもしれませんが、実際に受け取る代金というのは、処分にかかる費用に比べて、ずっと低いんです。その処分費は、昨今の燃料代の高騰の影響も受けて、値上がりし続けているという現実があります。
処分しながら感じていたのは、昔の家具は、今のものより作りがていねいだったり、素材もいいということです。まだ使えるのに捨てられていく。


このもったいなさをどうにかしたいと考えた時、最初に浮かんだのは、二次流通マーケットを作って、処分するはずだった家具を、再び流通させるというアイデアです。ただ、それだけだと単なる中古家具屋さんになってしまう。リサイクル、アップサイクルを、現在のニーズやトレンドに即して、米三の強みを生かして行うとしたら、どんな形が可能なのか。そう考えた末に生まれたのが、「トトン」です。
中古家具屋には、家具が欲しい方が集まりますよね。でも、それでは顧客の裾野が狭い。いきなり家具って、ハードルが高いじゃないですか。だから「トトン」にはカフェも入れた。マテリアルライブラリーと言って様々な素材に触れられる空間も作った。フォトスタジオもあるし、雑貨も販売している。そして、コワーキングスペースもある。
いろんな関心や、ニーズを持った方々が、自然な形で「捨てられるはずの家具」と出会っていくことができるんです。
元々は米屋。時代とともに変わり続けてきた米三だから…
―家具屋さんが行う新事業としてとても斬新ですが、スタートするにあたって、社内で反対意見はありませんでしたか?
もちろん多くの社員がいるので、皆が最初から納得してくれていたとは思いません。説得の流れとしては、「トトン」をつくることで、引き取った家具の処分費を減らせるという説明から始めました。新しいヴィジョンやコンセプトを共有するのは難しいけれど、現実的な効果が見込める部分なら理解を促しやすいからです。
でも、米三は初めから家具屋だったわけではないんです。どうして米三という名前なんだと思いますか?三郎兵衛が始めた米屋だったからです。だから、米三。もう創業174年になります。その後、輪島から漆器を仕入れて問屋をはじめ、その後、桐箪笥などの家具を扱いはじめた。家具屋としても、婚礼家具から始まり、今では法人向け、個人向け、リアル、ECと様々に展開しています。
ずっと家具一筋という会社ではなく、時代に合わせて変化し続けてきた。今も、その変化の流れの延長なんです。その点で、新しいことへの挑戦のしやすさというのはあったかもしれません。
有名建築家が設計した問屋センターが生まれ変わった
―コワーキングスペースのイメージを覆すような空間設計ですよね。リノベーション空間なのでしょうか?
このエリア一帯が問屋センターなんです。60年前、国立京都国際会館や沖縄コンベンションセンターなどを設計した大谷幸夫さんという有名な建築家が手掛けた建造物です。その問屋センターの一部だった米三の倉庫をリノベーションして、「トトン」をつくりました。




―問屋センターを、それほど一流の建築家の設計で作られるとは、当時の富山の勢いを感じますね。
そうですね。今ではなかなかないですよね。ここには、今も様々な会社が入っていますし、米三としても「トトン」のほかに、倉庫と物流センターが入っています。


―どのような意図で空間設計されているのですか?
「トトン」のコンセプトの中心に循環というテーマがありますし、この建物自体が十分に魅力を持っているので、できるだけ新しいものは付加しないという方針で進めました。
ただ、法的な許可を得るための変更はしっかりと行いました。目的の異なるエリアが6つあるので、用途変更の申請を通す必要がありました。防炎垂れ壁を作ったり、段差を作ったりはしましたが、空間自体には特に大幅な変更は行っていません。


―倉庫の空気を残したまま、圧倒的規模で家具が並んでいる。その不思議さが空間の魅力となっていますね。そして、本当に広いですよね。何平米くらいあるのでしょうか?
ワンフロアで800平米あって、一階と二階で計1600平米あります。


ー1600平米!!余り聞くことがない響きですね!大きいです。しかも天井も高いですし…冷暖房費がずいぶんかかりそうですね。
オープンが秋だったので、「トトン」として夏の暑さは体験していないのですが、12月の今はなかなか寒いですね。ガス暖房なのですが、コストはかさんでいます。
ベッドが打ち合わせスペースに、食器棚が壁に変わった
―置いてある家具には、どのようなものがあるのですか?
米三の家具が並んでいると思われる方もいるのですが、様々な会社の家具があります。というのも「捨てるをまわす」のコンセプト通り、引き取った家具を使っているからです。ほんの一部、米三の何十年もののデットストック家具もありますが、90パーセントは捨てられるはずだったものです。
―そんな中で、特に紹介したい家具はありますか?
そうですね。打ち合わせスペースなのですが、回収したベッドの中身でできています。


―まわりはアイアンラックですか!?
そうです。店舗で使われていたアイアンラックをフレームとしています。テーブル部分はベッドのマットレスの上にアクリル板を置いています。
―なんと!驚きです。そしてかっこいい。どなたのアイデアなのですか?
米三の事業の1つには、dot studioという一級建築士を擁するデザイン事務所があります。彼らが「トトン」を設計からしてくれていて、古い家具のアレンジも考えてくれています。
―食器棚を並べて壁とした個室ブースのインパクトがすごいですよね。食器棚の下半分を白く塗っているのには、デザイン上の意味があるのでしょうか?


古い食器棚もこれまでに多く引き取ってきました。素材はいいものを使っているし、まだまだ使える。でも、今の感覚で見ると「ボヤっとした印象」で、おしゃれではない。それらを並べ、半分を白く塗り替えることで、昔のものを染めていくようなおもしろさがありますよね。
―確かに、白という色の持つ、「描かれることを待つキャンバス」や、未来を連想させるイメージで、古い家具を塗り替えていく。それが半分にとどまることによって、継続を感じさせる。そんなメッセージを深読みしてしまいますね。
いい感じの表現、いただきます(笑)
―オープンスペースのテーブルもデザインが斬新ですよね。何でできているのですか?
ヒダクマとトトンのコラボレーションによってできたテーブルです。
もともと椅子だったものを解体して机にアップサイクルしています。


―椅子だった様が想像できません!
そうでしょうね。椅子の一部をパーツとして活用して、テーブルに作り替えていますから。
―いや〜おもしろいです!






職場に行けばおいしい朝ごはんが食べられる、という魅力
―そろそろ、運営のお話をうかがいましょう。オープンしてまもなく3ヶ月が経ちます。どのような方が活用されていますか?
施設としては、やはりカフェが一番人気ですね。土日はお子様連れのファミリー層や、お洒落なスポットに興味がある若い方々が多いです。


メニューも本格的なんですよ。魚沼市の老舗料亭 浜多屋さんプロデュースの定食や、富山の老舗焼肉店大将軍がプロデュースする本格和牛ハンバーグなど、素材にもレシピにも自信があります。


―コワーキングスペースにはどんな方々がいらっしゃいますか?
コワーキングの方は、例えば、隣の新潟県から移転したハウスメーカーさんに朝ごはん付きプランで使ってもらったりしていますね。コワーキングの月契約が10,000円なのですが、プラス5,000円で朝ごはん付きになるんです。


―職場に行けば美味しい朝ごはんが食べられるなんて、暮らしの質が上がりますね。お仕事の効率も上がりそうです。
あとはライターさんや写真家さん、フリーランスの方、初めてコワーキングスペースを使うという方がドロップイン利用されることもありますね。


―利用されている方に特によろこばれているポイントはどこだと思いますか?
やっぱり、朝ごはんは大きいですね。
あと、スペースが広いことも利点と感じていただいています。大人数で集まるイベントが開催しやすいという点はもちろん、広いと声を出すミーティングがしやすい点もうれしいようです。一応、会議室も無料で使えるようになっているのですが、多くの場所から席を選べますからね。
―カフェ、フォトスタジオ、マテリアルライブラリー、サーキュラーショップ、リペア・DIYスペースまである複合施設の中の、コワーキングスペースとなっていますが、複合施設ならではの利用のされ方、人の流れはありますか?
コワーキング利用されている方から、「異業種交流会をやりたいけど、手伝ってくれませんか?」といったお話があったり、イベントで訪れた会社さんがマテリアルライブラリーで自分たちも環境に配慮した素材を扱っているので、展示に参加したい、といったお話があったりもしています。単一の目的の場所ではないからこその、展開かと思います。








集客では苦労している。コワーキングスペース同士での連携など、できることを1つずつ。
―地方でのコワーキングスペース運営に関しては、都市部に比べてリモートワーク可能な職種の人口が少ないという点で集客に苦しんでいるケースが多くあると聞きます。「トトン」はいかがですか?
正直にいうと、まだまだ集客という面では苦戦しています。今は、需要を探っている段階であると言えますね。
利用してくださっている方々によろこんでいただけるよう、まずは運営面の充実を徹底します。
また、日々の働きやすさだけでなく、バックアップの幅を広げる…例えばイベントの開催サポートだとか、人や会社さんとのマッチングだとかを強化していきたいですね。その先に、利用者さんがまた誰かを紹介して…といった口コミでの集客が実現できたらうれしいですね。
あとは、現在富山県内にコワーキングスペースが増えているので、それぞれが特色を生かしつつ、連携して行こうという構想もあります。まだまだ、スタートしたばかりなのでこれからですが。
「もったいない」というライフスタイルをあらためて伝えていきたい
―今後の取り組みや展望について教えてください。
富山の方に対して、もったいないというカルチャーやライフスタイルをあらためて伝えたいという思いがあります。
アップサイクルした家具をブランド化して、外に出していきたいですし、またコワーキングスペースを使ってくださっている方たちと、様々な素材、デッドストック家具、古い家具と絡めながら商品開発などができたらと思っています。


また、サルベージイベントもやりたいと考えています。サルベージイベントというのは、フードロスの現状を知り、余ってしまった食材を活用して料理をし、それをおいしく食べるというイベントです。
そんなふうに幅広く「捨てるをまわす」を表現し続けることで、誰かのくらしをつくっていけたら、と考えています。
―「働く場所」を提供するだけでなく、価値観を伝え、それを広める場所としての「トトン」。本当にすてきですね。これからの展開も楽しみにしています。
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■施設名:トトン
■開業日:2022年9月23日(金)
■所在地:富山県富山市問屋町1丁目9-7
■HP:https://toton.style/
■営業時間:10:30~18:30
(カフェ・コワーキングスペース:7:00~18:30)
■面積:1F 810.61平米 2F 800.80平米
■運営会社:株式会社米三